― 立場のすれ違いから孤立してしまわないために ―
介護で最も辛かった瞬間(導入)
義兄弟たちが、母親に会いに来る。
仕事をやり終えた達成感や、旅行の土産話。
親孝行として語られる、たわいもない日常の話。
それを耳にする時間が、どうしようもなく辛かったのです。
家族がひとり増えただけ。
掃除、洗濯、食事をつくる。
これまでとあまり変わらない生活のはずでした。
少し物忘れをする程度の認知症を発症し、義母との同居が始まりました。
誰が母と暮らすのか――家族で話し合ったのは、最初の一度きりでした。
糖尿病を抱える義母は、動くことがおっくうになり、
散歩に誘えば気が進まない表情を見せる。
食事制限をすれば、楽しみを奪われたように沈む。
義兄弟たちは義母の憂鬱さを察しても、
その理由を私に尋ねることはしない。
義母への対応の悪さとして、受け止められる。
親子は語らいを楽しみ、
「また来るね」と言って帰っていく。
日増しに進む衰えを目の前にしているは、私だけ。
ほんの隙間のアルバイトに出ることも叶わず、
社会から切り離されたような虚しさの中で、
私は義兄弟たちを羨ましく見ていました。
楽しいひと時を、苦々しく感じてしまう自分。
金銭的にも時間にも自由がない現実。
揺らぐアイデンティティ。
あの頃の私は、「役割」ばかりを背負い、
自分の立ち位置を守ることをないがしろにしていました。
けれど今、はっきり言えることがあります。
役割を担う以上に、自分の立ち位置の確保が大切だということ。
介護の負担は、想像以上の速さで大きくなります。
頑張りがきかなくなってから助けを求めるのでは遅い。
早い段階から、協力関係を築くこと。
それが、孤立を防ぐ唯一方法だと思います。
一人で抱えこまないための協力体制
夫
家庭を守るために働くこと。
それが夫の役割だと、彼自身も信じていました。
けれど、父であり夫であると同時に、
これからは「息子」としての役割もある。
その気づきを促すために、
義母との会話や爪切りなど、具体的な小さな手助けをお願いする。
「ちょっと声をかけてくれる?」
「今日は一緒に散歩してくれる?」
小さな関わりが、やがて当事者意識へと育っていきます。
そして何より、夫は一番の理解者になり得る存在です。
ケアマネジャー(地域包括支援センター)
地域包括支援センター は、
要介護者だけでなく、支える家族の相談先でもあります。
ショートステイ、デイサービス、施設情報。
制度や選択肢を整理し、その時々に合った手段を提案してくれます。
「家族だけで決めなくていい」
この事実が、どれほど心を軽くするか。
かかりつけ医
病状の進行や、介護者自身の体調不良。
些細な変化も、共有しておくことが大切です。
医師の見立ては、今後の見通しを立てる大きな材料になります。
「まだ大丈夫」と自己判断しないこと。
それが結果的に、長期戦を支えます。
交流できる場所
・認知症カフェ(オレンジカフェ)
役所に行くほどではないけれど、
「最近こういう行動が増えて困っている」
そんな悩みをお茶を飲みながら話せる場所。
専門職の助言と、さりげない共感が得られます。
・認知症の人と家族の会
認知症の人と家族の会 では、
経験者の言葉が心を支えてくれます。
共感は、孤独を溶かします。
「私だけじゃなかった」と思えることが、何よりの救いです。
「介護格差」の処方箋― 家族間の不満をどう解消するか ―
家族間の不満は、
「感情」でぶつけるのではなく、
「仕組み」で解決する。
これが、私のたどり着いた答えです。
介護格差を解消する「親族プロジェクト」5つの鉄則
1.主語を「親(本人)」にする
「私が大変」「あなたは何もしていない」
この構図は対立を生みます。
常に主語を「親はどうしたいか」に置く。
2.依頼はタスク化する
「もっと協力して」ではなく、
「〇月〇日の通院の送迎をお願いできますか?」と具体的に。
介護を“事務作業”として切り出すこと。
3.情報を共有する
LINEグループなどで、
食事や体調の様子を淡々と共有する。
日常の可視化が温度を埋めます。
状況の深刻さが伝われば、
相談を持ちかけた時の説得力も変わります。
4.沈黙を合意とみなさない
「何も言わない=任せている」ではない。
無関心が押し付けに変わらないように、
定期的に同意を確認する。
5.できない理由には代替案を
労力が無理なら、
お金・知恵・物資など別の形で協力してもらう。
嫁の立場を守る「戦略的コミュニケーション」
義理の両親をケアする際、不信感を防ぎ、
自分の正当性を守るための護身術
・専門家を盾にする
「ケアマネさんがこう言っています」と伝える。
・「違和感日記」の公開
認知症の症状を感情抜きで記録し、
実子が認めざるを得ない証拠にする。
・経費は1円単位で透明化する
レシート共有で「使い込み」の疑念を物理的に防ぐ。
・実子を前に立てる
対外的報告は夫名義で。
・決定プロセスに巻き込む
ケアプラン会議へ同席してもらう。
守りは、攻撃ではありません。
自分を守るための構造づくりです。
温度差を埋める具体的フレーズ
異変を認めない実子へ
「元気に見えるのも無理ないです。でもその後の反動で寝込んでしまうのが今の日常なんです。」
サービス導入を渋る実子へ
「私が倒れたら生活が止まります。バックアップを作りませんか?」
無関心な義兄弟へ
「私は現場を守ります。〇〇さんには事務手続きをお願いできますか?」
義兄弟との金銭トラブルを避ける
同居介護は、
「家計」と「介護費」の境界があいまいになりやすい。
疑念を防ぐには、
「家計の分離」と「透明化」
1.世帯共通費のルール化
食費、光熱費、住居費などは、
頭割り+介護加算。
事前に合意を取る。
2.親名義の専用口座・カード
物理的に分離する。
3.家族間介護謝礼の明文化
介護は無償労働ではない。
正当な対価という整理も必要です。
まとめ
介護は、愛情だけでは続きません。
善意だけでは守れません。
孤立しないために必要なのは、
・早い段階での協力体制
・感情ではなく仕組み
・透明性
・そして、自分の立ち位置を守る意識
私は遠回りをしました。
けれど、その反省があるからこそ言えます。
介護は、家族の誰か一人の人生を犠牲にして成り立つものではない。
あなたの人生も、
同じくらい大切なのです。


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